Qwen3-TTSで日本語の声を作る|無料で版を固定できる
かつ
2026/08/26
この記事で分かること
- Qwen3-TTS でできること(完全無料・商用可・数秒の音声から声を真似る)
- 有料サービスから乗り換えた理由(「版」を固定できなかった)
- VRAM が足りない GPU だと、CPU より遅くなるという実測
- クローンした声が平坦になる原因と、設定ひとつでの直し方
- 日本語のアクセントが安定しないという弱点
結論を先に書きます
Qwen3-TTS は完全無料で、商用利用の制約もほぼありません。 ライセンスは Apache 2.0。自分のPCで動くので使用料も回数制限もありません。数秒の手本の音声を渡すだけで、その声を真似て読んでくれます。
そして 演技の指示を日本語の文章で書けます。 ここが他と一番違うところでした。
実際に聞いた印象はこうです。
Qwen の方が流暢な日本語に聞こえる。ElevenLabs より全然いい
全体的には 90点くらい
弱点もはっきりあります。日本語のピッチアクセント(「橋」と「箸」を分ける、あの高低)を扱っていません。 同じ言葉でも文によって高低が変わり、指示では直せませんでした。
それでも 「声を作る道具」としては今も使っています。 理由は最後に書きます。
なぜ有料サービスから乗り換えたのか
このシリーズの前の記事で、ElevenLabs で第25話の声が別人に変わった話を書きました。同じ声ID、同じモデル、同じ設定、1文字も違わないテキスト。違うのは日付だけなのに、声の高さが変わりました。
サポートに問い合わせて原因は分かりましたが、バージョンを固定する手段は提供されていません。 つまり、こちら側では防げません。
もう一つ、声を探している最中に 月121,000クレジットを使い切りました。
40話の作品を作っています。判断の軸はずっとこれ一つでした。
公開後に「声が作れません」は絶対にNG。
何年後かに1話ぶん作り直すことになったとき、同じ声が出せなければ作品が壊れます。有料サービスは便利ですが、版を固定できないという一点がどうしても引っかかりました。
Qwen3-TTS は、モデルの重みを自分の手元に置けます。 つまり 版を永久に固定できます。 2026年8月23日に、こちらへ移りました。
Qwen3-TTS とは何か
Alibaba(中国)が公開した多言語の音声合成モデルです。
| ライセンス | Apache 2.0(商用利用の制約がほぼ無い) |
| 費用 | 完全無料(自分のPCで動く。使用料も回数制限も無し) |
| 声の作り方 | 数秒の手本の音声から声を真似る(ボイスクローン) |
| 演技の指示 | 日本語の文章で書ける |
モデルは3種類あります。
| モデル | できること |
|---|---|
Base |
手本の音声から声を真似る(クローン) |
VoiceDesign |
文章で説明して、その通りの声を新しく設計する |
CustomVoice |
用意された9人の声から選ぶ |
演技の指示を日本語の文章で書ける、というのが最大の強みです。英語のタグを覚える必要がありません。
動かした環境と速さ
インストールは1行です。
pip install -U qwen-tts
動かしたのはノートPC、CPUのみ(8コア) です。
- モデルの読み込み:約2分
- 1セリフの生成:15〜30秒
セリフを何十本も回すと待ち時間は積み上がりますが、費用がゼロなので何度でも作り直せます。有料サービスで「試すたびにクレジットが減る」状態を経験したあとだと、ここは想像以上に効きます。
GPU を使ったら、逆に遅くなりました
これは意外だったので数字で残しておきます。
積んでいた GPU は RTX 3050 Ti Laptop(VRAM 4GB)。Qwen3-TTS が必要とするのは 4.45GB でした。わずかに足りません。
はみ出したぶんが主メモリとの往復になり、結果としてこうなりました。
| CPU | GPU(VRAM 4GB) | |
|---|---|---|
| 短いセリフ | 8〜20秒 | 85.5秒 |
| 長いセリフ | 27〜31秒 | 40.3秒 |
短いセリフでは4倍以上遅くなりました。
VRAM が足りない GPU なら、CPU で動かしたほうが速いです。 「GPU があるから GPU で回す」と決め打ちせず、一度は両方で測ってみてください。試した範囲では、これがはっきり出ました。
一番の発見:クローンは「読み方」まで真似ていた
ここが、この記事で一番役に立つ話だと思います。
演技の指示を書いても、何を書いても平坦な読み方に戻されるという状態が続きました。指示の書き方を変えても、強めても、変わりません。
原因は、クローンの既定の動きでした。
Qwen のクローンは、声だけでなく「読み方」まで手本から真似ます。 こちらが渡した手本は「静かに読んだ3秒の音」でした。つまり、手本の平坦さごとコピーされていたわけです。指示が効かないのは当然でした。
対処は設定ひとつです。
x_vector_only_mode=True
これを付けると 声の特徴だけを取り、読み方は取りません。
同じセリフを3回生成して、音の強弱のばらつきを測った結果です。
| 3回の強弱のばらつき | |
|---|---|
| 既定(手本の読み方ごと真似る) | 22.7〜33.8(11.1dB) |
声だけ取る(x_vector_only_mode=True) |
17.7〜19.1(1.4dB) |
ばらつきが 11.1dB から 1.4dB まで落ちました。 つまり、回すたびに読み方が暴れる状態が収まったということです。
そして 声の区別は保たれました。 実測で、主人公役は 267〜273Hz、別の役は 245Hz と、役ごとの差はそのまま残っています。
平坦さは、エンジンではなく手本から来ていた
念のため、同じ手本を使って別のサービス(MiniMax)でもクローンしてみました。 結果は 同じように平坦 でした。
エンジンを乗り換えても直りません。 手本の音声が平坦なら、どこでクローンしても平坦になります。手本を録り直すか、読み方を取らない設定にするか、どちらかしかないということです。
音声AIで「棒読みになる」と困っている人は、まず 渡している手本そのもの を疑ってみてください。
できないこと:日本語のアクセントが安定しない
ここが Qwen3-TTS の一番の弱点です。
日本語のピッチアクセントを扱っていません。 「橋」と「箸」を分ける、あの高低のことです。
実際に起きたことを書きます。作中で何度も出てくる4拍の言葉が、文によって高低が正反対になりました。(作品が未公開なので、言葉そのものは伏せます)
| その言葉が出てくる文 | 4拍の高低 |
|---|---|
| 肯定して言い切る文 | 低 高 高 高 |
| 問いかける文 | 高 低 低 低 |
同じ言葉なのに逆さまです。
そして、指示で直そうとしても直りませんでした。 生成のたびに変わるからです。同じ文をもう一度読ませると、また違う高低になります。狙って固定する方法が見つかりませんでした。
繰り返し出てくる言葉や、固有名詞が多い作品では、ここが効いてきます。 逆に、1回しか出てこない普通の会話文であれば、多少ゆれても気になりません。
VoiceDesign も、呼ぶたびに揺れる
文章から声を設計する VoiceDesign も、同じ指示で呼ぶたびに結果が変わりました。 実測で 147/142/111 Hz とばらついています。
なので運用はこうしました。
声は一度だけ設計する。そのとき出た音声を手本として保存し、以後はクローンで読ませる。
設計を毎回呼ぶと声が安定しません。一度作った声を「手本のファイル」として固定してしまうのが正解でした。
運用で決めたこと
音量をそろえる(ただしラウドネス基準は使わない)
Qwen が出す音声は −14.8dB 前後でした。他の素材と混ぜると音量が合わないので、ピークを −5.5dB に合わせるという決まりにしています。
ラウドネス基準の loudnorm は使いません。 一度試しましたが、強弱を圧縮して語尾まで持ち上げてしまい、片言に聞こえるようになりました。 音量をそろえるつもりが、演技を潰していたわけです。
道具を変えたら、前の道具用の細工は全部外す
これは反省として書いておきます。
ElevenLabs を使っていた頃、読み方を調整するために台本へ 読点や三点リーダ を足していました。その台本をそのまま Qwen に渡したら、変な間 になりました。
前の道具で効いていた工夫が、次の道具では邪魔になります。 乗り換えるときは、素の台本に戻してから始めてください。
一律に遅くしない
「速く聞こえる」と感じて全体を遅くすると、ただのスローモーションになります。速さは全体ではなく、気になった箇所だけ触ってください。
費用は実際いくらだったか
参考までに、8月の Replicate の請求内訳を出しておきます。
| 用途 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|
| 動画(Kling) | $336.70 | 89% |
| 音声クローン | $3.00 | — |
| speech-02-hd | $0.20 | — |
| 合計 | $377.65 |
音声は誤差です。 AI で映像作品を作るとき、削るべきは動画のほうでした。
音声AIの費用を必死に削っても、全体の1%も動きません。時間をかけて比較する価値があるのは「品質」と「版を固定できるか」であって、金額ではなかったというのが実感です。
向く人/向かない人
向いています
- 長く作り続ける作品。 重みが手元にあるので、何年後でも同じ声が出せます
- 費用をかけずに何度も試したい人。 完全無料・回数制限なしです
- オリジナルの声が必要な人。 文章で声を設計できます
- 演技を細かく付けたい人。 日本語の文章で指示が書けます
向いていません
- 同じ言葉が何度も出てくる作品。 アクセントが文ごとに変わります
- 固有名詞が多い内容。 読みの高低が安定しません
- 待てない人。 CPU で1セリフ15〜30秒かかります
これから使う人へ
x_vector_only_mode=Trueを先に知っておいてください。 既定ではクローンが読み方まで真似ます。手本が平坦なら、何を指示しても平坦なままです。ここに気づくまでかなり遠回りしました- 手本の音声が全部を決めます。 別のサービスでクローンしても同じように平坦になりました。エンジンを乗り換える前に、手本を疑ってください
- VRAM が足りない GPU なら CPU で回してください。 4GB では 4.45GB に届かず、CPU より遅くなりました。決め打ちせず一度測ってください
- 声は一度だけ設計して、手本として保存してください。 設計を呼ぶたびに声が揺れます(実測で 147/142/111 Hz)。以後はその手本からクローンするのが安定します
- 道具を変えたら、前の道具用の細工は全部外してください。 読点や三点リーダの追加が、そのまま変な間になりました
まとめ
Qwen3-TTS は完全無料で、商用利用の制約もほぼなく、重みを手元に置けるので版を永久に固定できます。 有料サービスで「同じ声が二度と出せない」を経験したあとでは、ここが決定的でした。日本語の流暢さも、聞いた印象では前に使っていたサービスより良かったです。
弱点は日本語のアクセントです。 同じ言葉が文によって正反対の高低になり、指示では直せませんでした。
この弱点は、次の記事で扱う Style-Bert-VITS2 で解決しました。ただし SBV2 は「既にある声を学習する」ことしかできません。新しい声を作れるのは Qwen のほうです。
つまり、両方要ります。 Qwen で声を作り、SBV2 にその声を学習させて日本語を正しく読ませる。今はこの組み合わせで作っています。続きはこちらの記事に書きました。
この検証は、現在制作中の長編AIアニメーションの制作過程で行っています。作品の公開が始まったら、この記事からもお知らせします。
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