「読み方はA社・声はB社」音声変換で2社をつないだ結果
かつ
2026/09/02
この記事で分かること
- 「読み方はA社、声はB社」という2社をつなぐ作り方の中身
- 一度は本番運用に採用した理由と、やめた理由
- 音声変換(Speech-to-Speech)を挟むと必ず起きる3つの問題
- 他の音声変換モデルを試した結果(無料のものを含む)
結論を先に書きます
演技の指示が効くサービスで読ませて、声だけ別のサービスで差し替える。 これは実際に動きます。一時期は本番の作り方として採用していました。私自身、聞き比べて「変換ありのほうが良かった」と判断しています。
それでもやめました。 理由は3つあります。
- **変換した音だと分かる。**加工を挟むほど「音声変換した音」になっていく
- **工程が2倍になる。**片方のサービスが変われば、全部作り直しになる
- **尺が変わる。**変換は元の音声の細かい「間」を広げます。動画と合わせる工程に影響しました
一言でまとめると、複数のサービスをつなぐと、良いところだけでなく弱点も両方引き継ぎます。
なぜ2社をつなごうと思ったのか
長編のAIアニメーションを作っていて、音声AIを一通り試していました。そこで、どのサービスにも片方しか無いという状況にぶつかりました。
| 演技の指示 | 声 | |
|---|---|---|
| Gemini TTS | よく効く | プリセットから選ぶだけ。自分の声は作れない |
| ElevenLabs | 指示は弱い | 安定していて、声を作れる |
Gemini は「悲しそうに」「少し早口で」といった指示が素直に通ります。読み方が生きています。けれど用意された声から選ぶしかありません。
ElevenLabs は声を作れますが、読み方への指示が弱く、設定の数値をいじって近づけていく作り方になります。
それなら、Gemini に演技をつけて読ませて、その音声の「声だけ」を ElevenLabs で差し替えればいいのでは。 これが出発点でした。
音声変換(Speech-to-Speech)とは
テキストから音声を作る TTS とは別に、すでにある音声を、別の声に変換する機能があります。Speech-to-Speech、STS、あるいはボイスチェンジャーと呼ばれるものです。
大事なのは、読み方(抑揚・間・速さ)は元の音声のまま残るという点です。変わるのは声質だけです。
つまりこうなります。
台本
↓ Gemini TTS(演技の指示つきで読ませる)
読み方の良い音声(ただし声はプリセット)
↓ ElevenLabs の音声変換
読み方はそのまま・声だけ差し替わった音声
理屈のうえでは、両方の良いところが取れます。そして実際に取れました。
良かったこと
聞き比べて、変換したほうが良いと判断しました。読み方の自然さは Gemini のもの、声はこちらが選んだもの、という状態が実現しています。
一時期はこれを本番の作り方にしていました。「うまくいかなかった実験」ではありません。成立はしています。
それでもやめた理由
1. 変換した音だと分かる
これが一番大きい理由です。
音声変換は元の音を作り替えます。作り替えた分だけ、元の声にはなかった質感が乗ります。1回なら気になりませんが、加工を重ねるほど「変換した音」に近づいていきます。
高さを直したい、音量をそろえたい、と後処理を足していくうちに、どんどんその方向に進みました。加工は少ないほうがいいというのが、ここで学んだことです。
2. 工程が2倍になる
セリフを1本作るのに、2つのサービスを通します。片方で作り直せば、もう片方も作り直しです。
そして怖いのは、片方のサービスが仕様を変えたら、全部作り直しになることです。40話ぶんの作品でこれは重い。実際、後になって片方のサービスの声が別人に変わるという出来事が起きました(別記事に書いています)。依存先が2つあると、事故の確率も2倍です。
3. 尺が変わる
これは想定していませんでした。
音声変換を通すと、元の音声の細かい「間」が広がります。 実測で確認しました。1本ごとの差は小さくても、動画と合わせる工程では効いてきます。
映像は秒単位でカットを割ってあります。音声の尺が変われば、そこに合わせて全部やり直しです。「声を差し替えただけ」のつもりが、映像の工程まで戻ってくる、という形で跳ね返ってきました。
他の音声変換も試しました
ElevenLabs 以外にも、無料・オープンなものを含めて当たっています。結果はどれも不採用でした。
| 結果 | |
|---|---|
| Seed-VC | 「変な変換をした声」になりました。1番の問題がそのまま出ます |
| IndexTTS-2 | 商用利用は別ライセンスが必要。しかも規約は中国語版が優先と書かれています |
| CosyVoice2 | 日本語が崩れます。ごく短い口語が、音の似た熟語として読まれました(「やるか」が「夜行」) |
| MiniMax | 別のエンジンで同じ手本から声を作ったところ、同じように平坦になりました |
最後の MiniMax の結果は、この記事の話とつながっています。声を真似るしくみは、声だけでなく「読み方」まで真似ます。 だから、手本にした音声が平坦なら、どのサービスを使っても平坦になります。詳しくは片言の原因をまとめた記事に書きました。
それでも2社をつなぐ価値がある場合
やめた側の話ばかり書きましたが、向く場面はあります。
- **尺が短い。**数十秒までなら、間のずれは問題になりません
- **映像と厳密に合わせる必要がない。**ラジオ的なもの、読み上げ、試作
- **声が最優先。**その声でなければ成立しない、という条件があるとき
- **一度きり。**継続して作り続けるのでなければ、工程が2倍でも許容できます
逆に、長く作り続けるもの・映像と合わせるものには向きません。 私の場合は両方に当てはまったので、やめました。
使うなら気をつけること
- **加工は1回まで。**重ねるほど変換した音になり、ノイズも乗ります
- **変換の前後で尺を測ってください。**変わることを前提に工程を組みます
- **元の音声を必ず残してください。**変換後だけ持っていると、やり直しが効きません
- **手本の音声の質が全部を決めます。**平坦な手本からは平坦な声しか出ません
- **依存先は少ないほうがいい。**サービスが2つあれば、止まる可能性も2つです
まとめ
「読み方はA社、声はB社」は成立します。 実際に本番で運用しましたし、聞き比べても変換ありのほうが良いと判断しました。
それでも最終的には、1つのサービスで完結する作り方に戻しました。 変換した音だと分かること、工程が2倍になること、尺が変わること。この3つが、40話という規模では重すぎました。
複数のサービスをつなぐと、弱点も両方引き継ぎます。 これが、この試みから得た一番はっきりした答えです。
その後さらに、版を固定できないという問題から、有料サービス自体をやめて無料のローカル構成へ移りました。今は1つのモデルの中で、声も読み方も完結しています。経緯は比較のまとめ記事に書いています。
この検証は、現在制作中の長編AIアニメーションの制作過程で行っています。作品の公開が始まったら、この記事からもお知らせします。
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